パプアニューギニアの村でみかけるそのやせ犬達は、
病気で毛がちぎれ、ハゲハゲのガリガリで、
卑屈なまなざしがやたらと印象的だった。
決して人間に媚びることをせず、与えられることをせず、
人目を避けるように人間と共生しているその犬達には、
先進国諸国で豊かに暮らしている「飼い犬」のような生温かさはなく、
かといって自ら獲物を捕らえる野犬のような鋭さもない。
単にボロボロのボロぞうきんのようなヤセ犬だった。
ところがそいつらが、1年に数回だけ
村で特別な儀式とか祭礼とかがあるときに、
人間達といっしょに野豚狩りにでかける。
人間の仕掛けた罠に獲物の野豚を追い込むのが
ヤセ犬達の仕事だという。
村人達は特別な儀礼のときだけ豚を食べる。
その食べカスがヤセ犬達にとっては唯一のご馳走であるらしい。
僕は走る姿すらも想像できないそのヤセ犬達が、
野豚を追っかけるなんてとても無理だろうと思っていた。
しかし、僕はそこでものすごいものを見てしまった。
そのヤセ犬達が野豚を見つけた瞬間、すごい!
全身にエネルギーが満ち溢れ、変身してしまった。
そしてまるで猛獣のように猛然と、
一斉に、すごい勢いで野豚を追い始めた。
その姿があまりにもすごくて、僕の体は思わず震え始めた。
僕の脊髄に何かが走った。
感動で涙が出るほど「美しい」と思った・・・。
「野豚を追うヤセ犬」より 藤浩志